ガッツ石松考

ガッツ石松は「板垣退助が選挙遊説中に暴漢に襲われた際に言った言葉は?」という問いに対して「ぐへぇ」と答えたのだという。この問いに対する正解は「板垣死すとも自由は死せず」であり、ガッツ氏の天然振りを伝える逸話とされている。だがここでひるがえって考えてみたい。ガッツ氏の答えは果たして本当に間違いなのだろうか?ちなみに正解とされている言葉は実は創作であり、少なくとも事件現場でのセリフではないというのは有名な話である。であるとすれば一言一句その通りであったかどうかは別にして、「ぐへぇ」並みの叫び声をあげたと考える方が素直であるしまた可能性も高いだろう。この問いはその字義にはないある一定の期待された答えというものを内包しており、我々はそれを当然のこととして受け入れかつその期待通りの答えを発する。しかし我々が常識と見做しているものが実は間違いであるとしたら、それを指摘できるのはまさにガッツ氏のような常識にとらわれないものの見方を有する人以外にない。我々が普段いかに偏見というフィルターを通してものを見ているかを、彼は痛烈に指摘しているのである。