『ズニ族の謎』(ナンシー・Y・デーヴィス ちくま学芸文庫)

ズニ族の謎 (ちくま学芸文庫)
著者は北米に数あるネイティブ・アメリカンの一部族、ズニ族に過去において日本人との大がかりな接触、融合があったという、ホンマかいなと思うような説を唱えている。実際ズニ族は周囲の部族と言語的、宗教的、身体的等々際立った孤立的な特徴を持っていて、著者はそれが14世紀に日本から来た集団との融合によりもたらされたとする。考古学的資料から14世紀にズニ族の文化等に劇的な変化があったことやズニ族の神話における太平洋岸から内陸への進行譚(その途中で何度か他の部族と融合したとされる記述がある)が裏づけられ、また他の部族には存在しないB型の血液型がズニ族には存在すること(日本人が20から30パーセントに対しズニ族は10パーセント代前半)、ズニ語と日本語の構造上の特徴の一致や語彙の一致等々を証拠としてあげている。が、著者の日本語に対する認識不足があって特に語彙の一致として挙げられている例の多くは明らかな間違いやこれはちょっと違うだろうと思われるようなものが多い。(このあたりは訳者も折に触れて何度も指摘している)ただヨーロッパの接触以前に日本を含めたアジアの人々が北米に何らかのかかわりを持っていたのは確実のようで、(例えば中国の古銭が遺物として遺跡から出てくる)著者の説はそっくりそのまま真実と受け取るのは苦しいがあながちまったくの間違いとも限らないようである。時期的に日本では南北朝動乱期だから南朝方の一派が敗れて流れ着いたなんて想像も出来るわけだ。歴史を題材にしてこういう夢物語を語ったり読んだりするのは面白いね。